アニメ映画『詩季織々』感想(短評)

詩季織々』は、3つの短編アニメから構成される。それらは独立しているので、独立した評価をするのが望ましいだろう。

 

陽だまりの朝食 ★★★★

主人公が祖母を亡くす中で、自分の人生の所々に存在したビーフンとその時の風景を思い返していく映画。「汁ビーフン」なる本場のビーフンの存在を初めて知り、興味深く見ることができた。冒頭の派手なモノローグは村上春樹みたいで笑ってしまったが、その後は実に落ち着いた雰囲気で純文学的な良い作品だった。

 

小さなファッションショー ★★★★★

モデルの姉とそのマネージャー、姉と共に暮らす妹を描いた物語。リアリスティックながら現状追認ではない造り、力強いメッセージ、泣ける展開。こういう風に生きていきたいと改めて強く思った。私が映画館で今年見た中では最高の作品。『サクラクエスト』にも近い部分があり見返したくなった。

 

上海恋 ★☆

新海誠の気持ち悪さと質の悪い恋愛映画の気持ち悪さを半分ずつ取り入れたようなゴミみたいな作品。カセットテープというアイテム選択から最後のシャオユの顔を映さない演出に至るまで気持ち悪さが爆発している。吐き気を催しながら劇場を後にすることになった。

 

以下は感想の感想になりますので口調が荒くなります。注意して読んでください。

 

 

 

 

この作品の評価を見ていると、あまり評判は良くないものの、その中では3作目だけが評価されている。違うだろ。3作目なんて本当にクソみたいな話で、完全に後ろ向き、作ったようなバカげた「悲劇(笑)」、新海誠的で最悪だと思う。ああ、新海誠のファンにとってはいいかもしれないよね。3作目しか印象に残らないなどと書いている人々は、「男と女のすれ違い!スゲー!!」「CDプレイヤーで隔絶演出スゲー!」みたいな、実に浅いところで映画鑑賞しているのだなと思う。明らかに不自然なすれ違わせ方なのに感動してしまえる、その人々の程度の低さ。こういうバカな男達が我が物顔で表を歩いているから世界が色を失っていくんだと痛感させられる。ただ3作目の登場人物達は新海誠的な気持ち悪さというより、質の悪い恋愛映画的な気持ち悪さだった。そこは強調しておきたい。本作を低評価している側の新海誠ファンはそういうところを「足りない」と見ているのだろう。誰のウンコかなんて僕にとってはどうでもいいんだけれど。

次に評価されているのは1作目だった。ただ、1作目をビーフビーフン言ってバカにしている意見も目立つ。違うだろ。この人は祖母が亡くなり、その中で日々を思い返していく中で自分のそばに所々ビーフンがあったことを思い返し、「ビーフンと日々」という観点から自分の人生を捉え直しているのであり、この男がそのまま日々ビーフンのことばかり考えて生きている(た)のでは全然ない。例えば「そんなにビーフンが好きならアニメ監督じゃなくビーフン屋になればいい」なんて意見もあるが、的外れも甚だしい。そうじゃないだろ。あくまで人生の一面を切り取ってビーフンの観点から構築し映像化したに過ぎないんだよ。そんなこともわからないのか。(こういうことはあまり言いたくないが、パンフレットを読めば監督がビーフンのことばかり考えて生きているわけではないことは明らかなので、僕が勝手に間違えているわけではない。関係ないがパンフレットの形状が不快だった。わざとあんな保存しにくい形状にして800円って……。資源の節約と考えて気持ちを鎮めたけれど。)

 

2作目について、ゲイがステレオタイプな描かれ方をされているという批判があった。この批判は正しい。この観点から批判されるのは仕方ないと思う。ただしこの登場人物(ゲイ)は男についてキャーとかイケメンよねとか言って騒いだりする描写がなく、その点で(従来のステレオタイプなゲイ描写に比べると)相当不快感を感じなかった。私としてはそれで許容できた。許せない人がいるのはわかる。私はそういう点で従来ほどのステレオタイプな描写ではないと解釈し、許した。

 

1作目と2作目はもう一度見たいと思える程度の出来。あと汁ビーフンを食べてみたい。そう思った。

 

 

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