映画『天気の子』感想 ヌルウヨ化するヤングのハートを射止めにかかった新海誠最高傑作

以下ネタバレを含みます。

新海誠作品にはいつものことだが、脚本上の問題点が多過ぎる。本当に多いのだけれど特に最後、なんであの叔父さんがビルのところにいるの。誰も説明できないですよね?脚本として明らかに間違っているからです。そういうことが気にならない、RADのPVと感動っぽいものが好きな人にオススメというのは『君の名は。』に引き続いての感想だと思います。あとおっぱいを見るギャグとか真面目に生死を彷徨っているところから急に女体ギャグになるところとかの性暴行癖も相変わらずですからね。本当に気持ち悪い映画です。

さてまあしかし、私は新海誠作品が嫌いで見てきたからこそ言えますが、この作品は新海誠最高傑作です。なぜ最高傑作なのか。

まず序盤ですが、バニラトラックやマンボーを出しながら、それを東京の悪い部分として使うという危ないセンスに笑いました。あれプロダクトプレイスメント(作品中で実在の企業を出してPRする手法)のはずなんですけれど、彼ら自身も社会的イメージが元から悪い企業であることを理解していて逆手に取っているんですかね。ここは面白かった。それから、彼女の弟がいいキャラしてる。いきなりてるてる坊主かぶってくれたり(あのシーン自体は脚本がおかしいと私は思うけれど)するノリの良さもあるし、先輩と呼びたくなるような名言も飛び出すし。モテモテという属性を活かしたシーンもあります。それから、本田翼さんの姉キャラもいい。この人は疑似科学との距離の取り方が絶妙で、ムーの原稿を書くような仕事は「腰かけ」なんですけれど、超常現象は超常現象として楽しむタイプなんですよね。これも後のシーンに活かされる設定です。

それから、この作品は現代の若者が望むストーリーを確実に狙い撃ちしているのにも驚きました。まず、鳥居で超自然的能力が得られるというのは実にヌルウヨ的な発想で、国家神道神道政治連盟というワードが当然我々の頭には浮かんでくるのですが、ヌルウヨはそんなことを気にせず鳥居にパワーを貰っちゃうんですよね。しかもビルの上にある鳥居で。それから、警察には銃を構えてでも抵抗するのに、保護観察処分には逆らわずおとなしくしているというのもヌルウヨの発想であり、これはおじさんに呆れられることからメタ的に若者を狙い撃ちにしている流れだとわかりますよね(新海誠的な雑に別離を作り出してこれで感動だろ?という低レベルな脚本に乗せて)。また、もっと直接的にモノローグで大人に向けて「ほっといてくれよ」なんて、政治的社会的な周辺なんてどうでもいい、愛する女の子と一緒に幸せに暮らしたいだけなんだ、政治には興味がない投票なんて行かない他人なんてどうでもいいという思想を吐露させているんですが、これはヌルウヨの胸にズドンと来ること間違いなしですよ。もちろんこれは実際には間違った思想なわけで、政治的社会的な周辺を良くしていくことと愛する女の子と一緒に幸せに暮らすというのは不可分なわけですが、ヌルウヨ的にはそんなのわからないしどうでもいいんですよね(もしかしたら新海誠も本当にわかっていないのかもしれないが笑)。

ただでも、愛する女の子とその弟と3人で一生暮らしたいなんてのは、たぶんヌルウヨだけでなく我々にも共通するファンタジーだと思うんです。それはたぶん、あのラブホテルに入ってドアを閉めて、今起きた逃走劇を笑い合いながら振り返るあのシーンに込められていて、ヌルウヨだけが持っているものではない、我々が持ってしまっている愚かな欲望と決して離れてはいないんですよ。いや、もしかしたらそこまで含めて批判できる強い大人もいるかもしれない。でも私にはできない。それは私がネトウヨとして育ってきて、その感覚が抜けていないからそうなのかもしれないけれど。

そして当然、この作品は悪質なプロパガンダではないかという指摘があると思うのですが、私はその観点から批判できなかった。というのは、これはただヌルウヨ的欲望が発露した物語として描いているから。それが「正しい」じゃないんですよね。地球温暖化が進行して(作中では置き換えられているが、あのセカイ系の末路はまさに地球温暖化なんかどうでもいいという、ヌルウヨの発想の中でも最も普遍的なものを示しているだろう)東京は海に沈んだままだから。ヌルウヨを慰撫する新時代のエロゲに過ぎないんですよこれ。プロパガンダなら、それが「正しい」として、ムー的感覚が正しいとしてそれが悪を打ち破り世界平和が訪れなきゃいけないけれど、実際には『君の名は。』の実家が沈んでいるしね(笑)「正しい」とは主張していないと思う。プロパガンダではなく、今既にあるものを描いているに過ぎない*1。ヌルウヨ化するヤングの求めるファンタジーになっているし、ネトウヨから抜け切れていない私も楽しまされてしまった。性暴行はダメだけどね。そっちはダメだけど。

この作品が好きかというと、全く好きではないです。新海誠の域を出ていないし、害悪ではあると思う。それでも上記の理由から、新海誠の中では最高傑作としたい。これが私の感想です。

グランドエスケープ (Movie edit) feat.三浦透子

グランドエスケープ (Movie edit) feat.三浦透子

*1:追記:ただし、作品中盤で気候変動について、「何百年に一度起きるものだから仕方ない」かのようなメッセージが挿入されており、これはヌルウヨへの慰撫を超えた、直接的なプロパガンダになっているのではないだろうか。観賞直後はそれを忘れさせられてしまっていたけれど、とある人のツイートを見て考えを改め、観賞途中に思ったことを思い出したので付記しておく。あれは地球温暖化なんか問題ないとする悪質なプロパガンダであり問題がある。