「アンチもののけ姫」映画としての『羅小黒戦記』

『羅小黒戦記』見ました。吹き替え版が公開されプッシュされていて、去年字幕版で公開していた時に見るべきだったなと後悔しました。作品の感想は置いておいて、この記事では『羅小黒戦記』が高らかに掲げた「アンチもののけ姫」性(アンチジブリ性)について語ろうと思います。

羅小黒戦記では人間と妖精が出てきます。妖精は凄まじい超能力の持ち主で、まあアベンジャーズみたいな超能力集団なんですけれど、明確に「自然」を代表しています。これは最初に人間が自然破壊をしてシャオヘイを追い出すところから、最後にフーシーが絶命しながらコンクリートジャングルの中に森を作って終わる(これを対立していた妖精の一人が「材木になるか、有料の公園になるのがオチだ」と蔑む)ところまではっきり描かれています。そして、この妖精たちは空に館を作って、人間の迷惑にならないよう離れて暮らしているのです。そして先に述べたように、人間への恨みをぶつけるフーシーのような妖精はしばき倒すことで、自分達の生活を守っています。

一方もののけ姫では、自然が圧倒的な力を持っていることは羅小黒戦記と同じですが、人間は自然に歯向かおうとして失敗します。エボシの村は崩壊して大量の被害者を出し、結局シシ神に首を返さざるを得なくなり、シシ神の首を取って不老不死を叶えようとする人間の身勝手な欲望は崩れ去ります。人間は自然の中で生かされているというのがもののけ姫の価値観です。

羅小黒戦記は明確にもののけ姫と対立しています。羅小黒戦記の中で自然とは、自分達が閉じこもって引き下がって、人間様に迷惑をかけないようにしようと隠れて生きている存在だからです。そこにあるのは人間優位主義であり、自然が人間に迷惑をかけようとすると処刑されますし、自然側の幹部が人間側の市長とやり取りしながら、色々と細工をしてちゃんと隠れるようにする、その様を共存だとしています。もののけ姫における人間と自然との共存とは隠された関係ではなく、自然を好き勝手しようとするようなら人間なんかひとたまりもないんだぞという緊張で、自然が優位にあるわけです。

だから私は羅小黒戦記を見て、妖精であるフーシーが妖精から鼻で笑われているのを見て、なんだか可哀想だなと思ったのです。妖精たちの姿勢はそんなに正しいものなのかと、もちろんフーシーがシャオヘイにしたのはひどいことだけれど、フーシーの最後まで人間と戦う姿勢を嘲笑い、無かったことにしよう、隠れて生きようなどと考える妖精でいいのか?と思いましたし、人間にとって都合の良い作品だなと感じました。

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