映画『はりぼて』感想 2020年ワースト級映画の何がダメなのか分析する

映画『はりぼて』は、実際の富山市議会で起きた政務活動費の不正取得を取り上げたドキュメンタリー映画である。先に言っておくが、議会への情報公開請求と合わせて公民館を取材することで嘘の政務活動を暴き、その後も他議員の嘘の出張等を暴いて悪徳議員の辞職、有罪、政務活動費支出の正常化による税金使途の改善につなげた報道成果については評価する。一方で、映画・映像への評価はまた別の話である。
以下にこの映画の何がひどいのか一つ一つ書き記していく。

  1. ナレーターが途中からいなくなる
    富山市議会の不正という話題について、当然事前情報に触れていない我々のために、最初はナレーターによる場面説明が入る。テレビドキュメンタリーみたいだなとは感じるが、おかげで理解できる映像にはなっていた。このナレーターがいつの間にかいなくなり、映画中盤、終盤は政治家を映すカメラ、政治家の言動と時々入る字幕(議員の名前、不正に得た金額が表示される)のみとなっている。別にそれで支障がなければいいのだが、本作には大いに支障があり、後に述べるような意味不明な映像群につながっていく。

  2. 唐突に時間が飛ぶ
    本作は前から順番に時間が流れていて、クリストファーノーランみたいなことにはなっていない映画なのだが、映画中盤に一箇所だけ急に裁判所とその前で待ち構えるマスコミに切り替わる場面があり、あとから「半年前」と字幕を入れて時を遡る部分がある。なんでこんな編集をしたのか意味がわからない。ドキュメンタリーとして素直に映像を見ている観客をいたずらに混乱させているだけである。もちろんナレーターが「◯◯議員が裁判の被告になっている。何があったのだろうか」等の補足を入れてくれれば何の問題もないのだがナレーターは存在しない。

  3. ある議員の辞職理由が表示されない
    それまでは政務活動費の不正という説明や謝罪シーンを入れて議員辞職を説明していたのだが、選挙の翌日に辞任した市議については説明が全くない。調べてみると普通に政務活動費の不正取得の話なのだが、なぜ明示されなかったのだろうか。辞職はしたが、本人が不正を否定しているからニュアンスに迷ってお茶を濁したのだろうか?普通に「こんな不正があったとされるが本人は否定しつつ辞職」等の説明を入れればいいのに、そういった説明のないまま進んでいく。

  4. 視点がぼやけてしまう
    本作の主人公は最初から一貫して「富山市議会の不正(自民党)議員ども」なのだが、中盤の一部と終盤、不自然にチューリップテレビの記者(おそらくこの映画の監督)にスポットライトが当たり、彼らが異動前に自民党議員に挨拶しに行ったり、チューリップテレビ社内で謎の演説を行っている様子が映し出される。それって関係なくないですか?初めから「チューリップテレビの記者」が主人公ならそういう映画としてみるからいいけれど、そうではない。変な編集になっている。監督、自分に酔ってないですか?

  5. 編集の切り方が悪い
    会見での議員の発言の後や、議員が歩いているシーン話しているシーン等々に無駄な時間が多い。そもそも必要ない映像を挟んだり、必要な映像の終わり際を5秒程無駄に長く伸ばしたりと、全体的に編集が雑。かと思うと急にとある自民党議員の発言だけポンポンポンとカットを入れて短くしスタイリッシュ風にしている編集があったり、編集方針が不安定で一貫していない。もちろん何か強調するポイントがあってやっているわけではなくただ不安定なので、見ていて頭が痛くなってくる。

  6. カラスシーン挿入による言い訳
    本作はほぼ全てが議会、市長、その周辺と文句を言う市民や取材するマスコミを扱っていることで統一されているのだが、一箇所だけそれらと全く関係ないシーンが存在する。カラスのフンに対しての看板を立てて、看板の文字はカラスには読めないが、人間に伝えることでカラスをコントロールする?みたいな話が流れる。これは市民が議会を監視しなければならないという意味を込めた比喩だと思うのだが、別にこんなものは必要ない。こんなものを入れて「これは映画なんですよ」なんて言い訳はしなくていい。そこに手間をかけるくらいなら村上和久議員周りとか、説明の足りないところに説明を加えてほしい。いい映画はまずいい映像から成り立つはずだ。

これらがこの映画がダメな理由である。
また、本作のそもそもの前提にある話として、富山市議会で議員報酬を引き上げる提案がされた(が、政務活動費の相次ぐ不正発覚後撤回された)、というエピソードが入っているのだが、議員報酬についてどの程度の額が適正なのかというのは政務活動費とは別件だろと思うし、取材陣の取り扱い方も「議員」というものをわかっておらず、感情的な「あんな奴らにカネを渡すな」程度の次元に終始していて幼稚であった。これはちょっと政治の専門的な部分の話であり、(映画映像の変な部分とは違い)大多数の観客は知らないし気づかないだろうが、私は指摘しておく。

この映画のダメな部分として既に大勢に指摘されているであろう、冷笑を誘うような音楽の使い方についてだが、もちろん音楽も奇妙ではあるものの、観客の一部が笑っていることが本当に不思議でならなかった。不正に何十万何百万も税金を得て、少し追及されたらボロボロになっている様は、別に笑えるものではなくただただ呆れる映像であった。また、自身を守ってくれる秘書や忖度マスコミもなく、カメラに晒されたり少し調べれば不正の証拠が出てきてしまう地方議員の大変さというか、国会議員との違いを私は感じずにはいられなかった。本人がカメラの前でしどろもどろになっている様子を撮影されているのは、富山市議会議員の能力が特別劣っているのではなく、国会議員に比べて守ってくれる人がいないからなんだろうな、と。大臣バリアや入院、報道機関への圧力を使ってマスコミの不正追及から逃れる人達とどうしても比べてしまい、そこに地方政治の現実、哀愁を感じていた。