映画『ボーダーライン』感想

というわけで『ボーダーライン』を見ました。全体的な評価は「普通」です。以下ネタバレあり。

前半45分まではヴィルヌーヴらしい濃厚な映像と鈍重な展開で、好みかどうかはともかくこういう映画なのねとなるが、その後の映画は筋が見えなくなるのと一緒に、はっきりと自分好みではない話になっていった。

全体的にはかなりわかりやすい対立構造が仕込まれていて、繰り返し語られるので観客の誰もが意識せざるを得ないのだが、家族を持つものと家族を奪われたものの話として描かれている。ただし主人公は家族を奪われたとはいっても生温く離婚しているため、優秀であっても結局ベネチオデルトロにはなれず、ボーダーラインを超えられない平凡な警官として一生を終えることになる(内通がバレてボコボコにされダサく自白する男も離婚していた)。一方で家族を持つものを明白な「資本家」「非リアからの搾取者」としての悪と割り切って描いているかというとそうではなく、悪のメキシコ警官シルビオへの描き方はかなり同情的で、もちろんそれは現実の多面性を現しているという意味では正しいのだけれど、それによって話のテーマが散逸しているのではないかという印象が拭えない。

女主人公がボーダーラインを超えられなかったため、ヘタレたまま終わった黒人セクハラ男がなんでいるのか結果的によくわからなくなったのだが、女主人公がボーダーラインを超えられるかどうかという映画の行き先をボヤかすために必要だったということなのだろうか?

暗視ゴーグルのシーンがいかにもヴィルヌーヴっぽいゲーム的なセンスを取り入れた映像だったり、ヴィルヌーヴっぽい映画ではあった。ただ個人的な好みかというと私は女主人公×戦闘モノなら女主人公が敵をバッサバッサと倒していく痛快な娯楽ムービーをまず求めている(!?)ので……(『アトミック・ブロンド』だいしゅき。あへあへ。)見所や語り所はある映画ではあったけれど(そもそも殺し合う話を複雑に描くことは好きだし、『コマンドー』と化したベネチオデルトロが悪の親玉の家族だけをぶっ殺すシーンはそれ自体楽しくはある)、世間的な評価ほどは好きではないかな。見る機会をくれたことには感謝します。