『シン・ゴジラ』感想(完全ネタバレ含む)

ゴジラシリーズはハリウッド版含め未見なので、ゴジラ完全初見。陸上自衛隊やテレビ局各社協力のもと作られている作品だからか、極端な作風ではない。良い映画だと思う。

 

この映画が伝えたいことは2つで、1つは東日本大震災の遺した傷痕、もう1つは政治家の仕事だ。巨大生物が東京湾から上陸してくる様は、東日本大震災による津波そのもので、見ていてかなりつらくなる。後から政治家が被災現場を見るシーンがあり、ここで製作者の意図が東日本大震災であることに気づく。明らかに狙って、巨大生物の上陸を津波に似せている。僕ですら泣いてしまうほどなので、より直接被災した人達が見られる映像なのかどうか。ただ、巨大生物が帰っていった後、まだ法律の制定すらできていないのに、あんなに早くビルの完全復旧が進むはずがない。一時の平和に皆が安心している様を示したかったのだろうが、東日本大震災の爪痕を描く作品だからこそ、あのカットには納得いかなかった。

 

政治家についての描き方が極端ではない。総理大臣も愚者ではないし、それは主人公が正しい政治家であるということを派手に強調しない作りになっている。ディスプレイに表示された生物の原子構造を見て議員までがそうか!と頷くところはかなりツッコミたくなるポイントだが。一部では噂があった「憲法9条があるから攻撃できない」などというシーンは全くない。このようなデマを流すのはやめてほしい。人物描写はほとんどなく、例えば序盤では政府の動きの遅さを咎めるシーンなど、かなりわざわざセリフに説明させることが多い。深くはない。ただ、明確に反核をうたっている。そこは外していない。

 

災害表現は強烈で、ゴジラの恐ろしさが伝わってくる。散々ビルがなぎ倒され、官邸機能の移転を決定させられた後の、あの強烈な熱線。絶望しかない。また、ゴジラに対する自衛隊や米軍の攻撃にも迫力があり、重さがある。その一方で、泣き叫ぶ被災者の映像がほとんどないのが残念というか、暗い映画になっていないポイントでもあるというか。明るい映画なんですよ。ゴジラは絶望を見せるけど、その絶望を深く深く見せる映画ではない。ゴジラによる絶望よりは、人間の希望を政治家、科学者を通して描いている映画であって、僕が「良い映画」と形容したのもそういうところがある。

 

作戦遂行直前にアメリカ・国連による核攻撃が炸裂して、ゴジラが増殖し、人類滅亡に至る映画のほうが見たかった。正直そっちのほうが見たかった。でもまあ、こういう人類の希望を描く映画でもいいんじゃないですか。