『サカサマのパテマ』感想 ‐『サカサマのパテマ』は何を伝えたかったのか?‐

『サカサマのパテマ』見ました。以下ネタバレありで感想を書きますが、僕はこの映画を他人に薦める気はないため未見の方でも読んでもらって構いません。

 

実は、見終わったときに僕はこの映画の内容を理解し切れませんでした。途中で思い違いをした結果、最後の主人公たちがどこにいるのかがよくわからなくなってしまったのです。この解答を読んで理解しました。恥ずかしながら、ネタバレを読んで理解したということを明言しておきます。僕は最初、パテマが上に飛ばされた後のシーンで、上の世界が地下だと思ってしまったんですよね。色合いが似ているから。セリフとしての説明もないし、つまりこの世界は上下ループしているんだ、「誰がこの世界を地球と同じような場所だと言った?」という話だと思ってしまったのです。普通に地球(と同じようなもの)が舞台なんですね。

 

とりあえず世界観については理解しましたが、その上でこの映画の問題点をまず挙げていきます。

・面白くない

とにかく全く面白くないです。ワクワクしない。一番重要なポイントなので書いておきます。

・アイガ世界の設定が適当

「空に落ちた連中は忌まわしい」「忌まわしいので空を見てはいけない」それはわかりました。じゃあなんで学校ではあんな青空全開の場所を移動して、教室もガラス窓になっているんですか?動く歩道があり、大きな建物を作れる技術力があり、電気もあるのに、なんで壁で覆わないんですか?頭おかしいんじゃないですか?

更に言うと、それまで感情なく俯いていた連中が、空に気球が見えたというだけの理由でみんな騒ぎ出すのもおかしいです。あのシーン、全員が空を見始めていて、逆に気味が悪いです。常識的に考えればわかりますが、学生の中には何があっても見ないようにしていたり、おいお前見ちゃダメだろと他人を押し付けて止めようとする人もいるはずです。タバコ禁止の学校で、映画スターがタバコを咥える広告が掲示されたら、いきなり全員がタバコを吸い始めるようになりますか?

地下世界とアイガ世界の位置関係が適当で、行き来が簡単なのか難しいのかがわかりません。描く場所を少なくして誤魔化しているようですが、直通してますよね?地下世界の連中を探しているというわりに、探さないとわからないほどの場所に隠れているようには見えない。物語で描いているのがほぼ住処発見寸前だったということなのでしょうか。

・恋愛脳が気持ち悪い

吊り橋効果一本で恋愛に持ち込んでいること、それによる意味不明なセリフ回し、その上に恋愛をギャグにしようとする恥ずかしさ、製作者お前そもそもこの設定を「男子は女子に抱きつかれたら興奮するじゃんw」という安易な感覚で使ってるだろ。そういった部分がひどかったです。

恋愛に限らず、すべてが嘘っぽい。人々の背景に生の感情が見られない。例えば地下世界の男と地上世界の男が共闘するというプロットは、普通に考えたら盛り上がるものですが、この映画を見ていても全く盛り上がりません。彼らに生の感情が見られないからです。

もう一つ言うと、男が地下世界で説教されるシーンは意味不明でした。セリフのつながりがめちゃくちゃです。あそこを理解できた人はいるんですかね?

 

では、ここからが本題です。この全く面白くもない映画は、一体何を伝えたかったのでしょうか?

 

・立場によるものの見え方の違い

セリフからして明らかに狙っていると思ったのはこれです。しかし、そもそもの重力の謎には一切向き合っていませんし、ラストで廃墟と化した地上世界を発見して「すごーい」「きれーい」では何の解決にもなっていません。お互いを認め合うことにつながる何かでないと成り立たないのです。

情報隠蔽の愚かさ

ネタバレを読んだ後に思いました。僕はこの映画の悪役があまりにもレベルが低くどうかと思っていたのですが、ネタを理解すると悪役のレベルが低いことに意味があるという話なのです。嘘の歴史を教え続けた結果、本当の歴史を忘れてしまい、その指導者が醜い性欲の怪物になるというのは良い皮肉です。公文書を破棄し、歴史を隠蔽し、そんな状態を国民が許し続けていると、いつかあんな国家になってしまうよ、ということです。しかし、それを伝えるにはアイガにしろ地下世界にしろ描写が足りない……これが個人の話ならいいのですが、社会や国家の話だと考えると描いている場所が狭すぎるのです。

・恋愛の美しさ

というわけでじゃあ男女恋愛かということになるのですが、この映画の恋愛描写は本当にひどい。先に述べた通り、生の感情が感じられないので、恋愛に感動することもないです。気持ち悪い。

 

ネタバレを読んで、なるほどなあとは思った映画でしたが、感想を一言で表すなら「だから何?」です。『イヴの時間』とどっちがマシか?と思いますが、どっちもダメだと思います。「だから何?」こんな映画を作って何を表現したかったのか。なるほどなあと思ったので駄作ワーストランキングには入れませんが、全然面白くなかったです。